大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和36年(ヨ)2169号 判決 1963年11月29日

判   決

神奈川県市塚市袖ケ浜九〇番地

申請人

田中国太郎

右訴訟代理人弁護士

山内忠吉

飛鳥田一雄

東京都千代田区丸ノ内一丁目一番地

被申請人

日本国有鉄道

右代表者総裁

石田礼助

右訴訟代理人弁護士

田中治彦

環昌一

右訴訟代理人職員

鵜沢勝義

ほか八名

右当事者間の昭和三六年(ヨ)第二、一六九号地位保全等仮処分請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

申請人の本件申請はいずれもこれを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

一、当事者双方の求める裁判

申請人訴訟代理人は、「被申請人が申請人に対し昭和三六年六月二七日になした免職の意思表示の効力は、本案判決確定に至るまで仮に停止する。被申請人は、申請人に対し、昭和三六年七月一日以降右本案判決確定に至るまで、毎月末日限り、一ケ月金三三、〇〇〇円の割合による金員を仮に支払え。申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求め、被申請人訴訟代理人は主文同旨の裁判を求めた。

二、申請の理由

1  申請人は昭和二〇年九月二〇日被申請人に雇傭され、昭和二五年一〇月から東横浜貨車区の修車掛として勤務していたものであるところ、被申請人の総裁は、申請人が昭和三六年五月一日横浜市神奈川区反町にある被申請人の横浜職員集会所(以下、集会所と略称する。)で催された東横浜駅職員による退職者送別会の席に乱入し、制止する職員三名に暴行を加え、そのうち二名の職員に全治一週間の負傷をさせた不都合な行為をしたとの理由により、同年六月二七日申請人に対し日本国有鉄道法(以下国鉄法と略称する。)第三一条により免職する旨の意思表示(以下、本件免職処分という。)をした。

2  しかしながら、本件免職処分は、次の理由により無効である。

(一)  申請人について、被申請人が懲戒免職事由として掲げるような事実は存しない。

(二)  仮に、右のような事実があるとしても、それは、以下に述べるように、国鉄法及び被申請人の就業規則に定める懲戒免職の事由に該当しない。

(1) 国鉄法第三一条第一項は、総裁が懲戒処分をなしうる場合を、職員に業務執行中又は業務に直接関係して非行のあつた場合に限定し、職員の業務外の非行については、それが刑事事件として裁判所に係属する間、同法第三〇条により当該職員を休職とすることができるに過ぎないものと解すべきである。次に、被申請人の就業規則第六六条は第一号ないし第一七号として懲戒処分の対象となる職員の非行を列挙しているが、第一六号までは、いずれも職務上の行為に関するものであり、第一七号に「その他著しく不都合な行いのあつたとき」というのも、前各号に含まれない業務上の不都合の行為のみに限られる趣旨と解すべきである。蓋し、被申請人とその職員との間に支配関係が及ぶのは、職員が業務に服している間に限られるものというべく、業務時間外における職員の行為も懲戒の対象に含まれると解することは、職員の私生活にまで干渉し、個人の自由を侵害することとなり、とうてい許されないところである。

しかるに、被申請人が懲戒事由として主張する申請人の行為は、本来自由な業務時間外における私的な行為であつて、たまたまその相手方が被申請人の職員であつたにせよ、業務に関する非行というべきものではなく、前示法規の定める懲戒事由には該当しない。

(2) 仮に、就業規則第六六条第一七号にいう「著しく不都合な行い」には職員の業務外の行為を含むとしても、後記被申請人の主張によると、全治一週間の傷害を負つた職員は米山及び佐野であるが、右両名とも受傷の翌五月二日から平常通り勤務していたのであるから、右傷害は勤務に支障ない程度の軽微なものに過ぎないことは明らかであり、また、酒宴の席で多少常軌を逸する行為があつても、これを深く追及しないのが一般慣習である。従つて、申請人の行為は「著しく」不都合な行為ということはできず、就業規則第六六条第一七号には該当しないというべきである。

(3) 仮に、申請人の行為が就業規則第六六条第一七号に該当するとしても、その非行の程度は軽微であり、情状酌量せらるべきものであつて、国鉄法第三一条所定の懲戒処分のうち最も情状の重い免職の理由には該当しない。

(三)  本件免職処分は、公共企業体等労働関係調整法(以下、公労法と略称する。)第三条による労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為である。すなわち、申請人は、被申請人の職員をもつて構成される国鉄労働組合設立以来の組合員であつて、昭和二九、三〇、三四、三五の各年度には、いずれも同組合横浜支部東横浜貨車区分会長に、昭和三一ないし三三の各年度には、同分会委員に選出され、特に熱心に組合活動に従事していたが、被申請人は同年七月一一日申請人に対し、申請人が同年六月二一日、二二日の両日桜木町駅で勤務中の職員を多数の組合員とともに強制連行したとの理由により、懲戒処分として戒告する旨の事前通告をした。

しかし、右両日とも申請人は職場を休み、桜木町駅には出向いておらず、右通告にかかる懲戒処分は、「労働基準に関する協約」に基く申請人の弁明弁護の結果、実施されずに終つたのであるが、被申請人が、明白な事実に反し、あえて申請人に対し右通知をしたのは、申請人の東横浜貨車区分会長としての組合活動を嫌悪し、心理的圧迫によつて申請人を組合活動から遠ざけることを策したために外ならない。しかして、本件免職処分も、被申請人において、申請人がなお前記分会長として組合活動を続けていることを嫌悪し、酒宴における些細な行為を口実にして、申請人を組合活動から排除する目的に出たものである。

3  かように、申請人はいぜん被申請人の職員たる地位を有するものであるところ、被申請人はこれを認めようとしない。申請人は、被申請人から毎月基本給金二八、五〇〇円、扶養手当金一、六〇〇円、暫定手当金三、八〇〇円合計金三三、九〇〇円の賃金の支給を受けていたが、本件免職処分後はその支払を得られないばかりか、職員として享受してきた国鉄乗車証、制服等の支給、職員共済組合による療養費等の給付、厚生施設の利用等種々の利益を奪われる結果となつた。妻及び子供四人をかかえた申請人にとつて、免職処分無効確認、賃金支払の本案判決確定までかような不利益を受けることは、著しい損害を被ることになるので、本件仮処分申請に及んだ(なお、仮払を求める金額は前記賃金額の内金である。)。

三、被申請人の反論

1  本案前の主張

本件免職処分は次に述べるとおり、行政事件訴訟特例法第一〇条第七項(行政事件訴訟法第四四条)にいう「行政庁の処分」に該当するから、仮処分は許されず、本件申請は不適法である。

(一)  まず、被申請人の法律的性格について述べる。被申請人は、従前国の行政機関によつて運営されてきた国有鉄道事業を国から引継ぎ、これを能率的に運営発展させて、公共の福祉増進に寄与するという国家目的達成のため、特に法律により設立された公法上の法人であり(国鉄法第一条、第二条)、行政法上いわゆる公共団体たる性格を有するものである。被申請人がその資本を政府の全額出資にまち(同法第五条)、業務の運営については運輸大臣の任命する監査委員会の監査に服し、(同法第一四条、第一九条)、総裁は内閣の任命により(同法第一九条)、予算については政府の調整を経て、国会の審議を受け(同法第三九条以二の下)、会計は会計検査院の検査に服し(同法第五〇条)、全般的に運輸大臣の監督に服する(同法第五二条以下)などのことは、すべて被申請人の公共団体たる実体を示すものであり、国鉄法第二条の規定は、かかる被申請人の法的性格を宣明したものに外ならない。

(二)  次に、被申請人と職員との法律関係について述べる。被申請人の職員は、国鉄法の施行により、従来の国家公務員たる身分を有しなくなつたが、前記のような被申請人の公共的性格にかんがみれば、なお、憲法第一五条にいう公務員たる性格を保有し、その雇傭関係は公法上の法律関係というべきである。すなわち、

(1) 国鉄法によれば、職員は、法令により公務に従事する者とみなされ(同法第三四条第一項)、その任免の基準(同法第二七条)、降職、免職(同法第二九条)、休職(同法第三〇条)、懲戒(同法第三一条)、服務の基準(同法第三二条)などについては、国家公務員に関する国家公務員法の当該規定とほぼ同様に律せられ、労災補償や失業保険についても、国家公務員と同様に取扱う趣旨の規定(同法第六〇、第六一条)も存する。

尤も、国鉄法には、職員が全体の奉仕者として勤務すべき旨の国家公務員法第九六条に相当する規定は存しないが、それは国民の財産の受託者として、国民の利益にこれを運営管理すべき被申請人の責務から当然のこととして、あえてそのような規定を設ける必要がないからに過ぎない。また、国鉄法第二九条ないし第三二条に類する規定が一般私企業における就業規則中にみられるとしても、右諸規定は、公共団体たる被申請人の組織に関する公法的性質のものとして、労働協約や総裁の意思によつても、これを改変することはできず、労働基準法第九〇条、第九二条が適用される一般私企業の就業規則におけるそれとは、その性質を異にするものである。

(2) 被申請人の職員の身分関係が国家公務員と同じく国との特別権力関係にあることは、「公務員等の懲戒免除に関する法律」第二条及び日本国との平和条約の効力発生に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令第一条において、被申請人の職員の懲戒の免除は政府がこれをなす旨規定していることによつても、明らかである。

(3) 更に、被申請人の職員について公労法により争議行為が禁止されていることは(同法第一七条、第一八条)、被申請人の職員が公務員と同様の性格を有することを根拠づけるものである。

なお、同法が被申請人の職員につき、労働条件について団体交渉権を認め(同法第八条)、紛争解決のために調停、仲裁等の制度を設けていること(同法第二六条以下)を理由に、職員の雇傭関係を私法関係であるとする後記四1(二)の申請人の見解は誤りである。国家公務員や地方公務員も当初は、いわゆる労働三法の適用を受け、広く団体交渉権や労働委員会による調停、仲裁制度が認められていたところ、昭和二三年政令第二〇一号の施行により、団体交渉権や調停、仲裁の制度が否定され、その後、昭和二七年の公労法改正と地方公営企業労働関係法の制定により、いわゆる五現業官庁の国家公務員や公営企業に従事する地方公務員については、再び団体交渉権や調停、仲裁の制度が認められるにいたつたのであるが、その間、国家ないし地方公務員の身分関係が終始公法関係であることに変りはない。現行法が一般公務員と五現業官庁の国家公務員、公営企業に従事する地方公務員、公共企業体の職員の間に、団体交渉権等について差等を設けているのは、専らその職務が権力作用を伴うか否かによるのであつて、団体交渉権や調停、仲裁の制度の有無は、雇傭関係の公私の性質を左右するものではない。

(三)  しかして、被申請人の総裁は、国鉄法第三一条により、懲戒権者と定められ、右懲戒権の行使については、行政庁としての資格を有し、その懲戒処分は、行政行為と目すべきものである。もし、申請人が主張するように、申請人の職員につき、公労法の適用があるが故に、これを私法上の行為であるとするならば、いわゆる五現業官庁の国家公務員に対する懲戒処分も同様に解せざるを得ないことに帰し、その非なることは明らかである。

2  申請の理由に対する反論

(一)  申請の理由1の事実は認める。同2の事実については、(三)のうち、申請人がその主張のような組合の役職にあつたこと、被申請人が申請人主張の日に、その主張のような懲戒事由により申請人に対して戒告処分の事前通知をしたが、申請人から弁明弁護がなされた結果、不処分に終つたことは認めるが、その余の事実は否認する。同3の主張は争う。

(二)  被申請人が申請人を本件免職処分に付したのは次の理由によるものである。すなわち、昭和三六年五月一日午後六時半頃から横浜市神奈川区反町所在の横浜職員集会所(被申請人の職員が業務上等の会議、研究などに使用するための施設。)二階において、東横浜駅職員有志による退職者送別会が開催されたが、これに先立つて、右送別会場に隣接する四畳半及びこれに続くベランダでは、国鉄労働組合横浜支部横浜及び高島両地区協議会のメーデー実行委員会の解散会が行われ、申請人を含む一六名がこれに出席していた。同日午後五時半頃、東横浜駅長伊藤喜一、同助役小巻広邦らが前記送別会に出席のため、集会所に到着するや、解散会出席者らは、ベランダの上から「あれが駅長だ。」などと指さして騒ぎ、玄関を入ろうとする同駅長に水をかけたりした者もあつた。特に申請人は、送別会の始まる前に送別会出席者の東横浜駅運転掛川口利一に対し「東横浜貨車区の俺達がいるのに、何故挨拶に来ない。」などと威嚇的言辞を弄し、また、他の解散会出席者とともに、解散会場に隣接する送別会場の廊下の戸をたたいたり、入口附近で罵声を放つたりしていた。送別会開始後も、申請人は廊下から送別会場をのぞいて、「川口、小巻、駅長」などと大声で怒鳴り、にらみつけたり、送別会場の入口の戸を蹴つたり、無断で開けたりすることをくり返し、午後七時一五分頃にいたり、閉めてある戸を大きく三回位蹴とばした。そこで送別会に出席していた退職者元東横浜駅助役石井幸次郎が戸を少し開けたところ、申請人が送別会会場に乱入し、右石井に対し殴打、足蹴等の暴行を加え、これを制止しようとした同駅貨物担当助役米山留七を蹴倒して、同人に全治一週間を要する左大腿部挫傷の傷害を与え、同様に申請人を制止しようとしていた同駅庶務掛市川繁夫を殴打し、更に、右暴行を見兼ねて申請人に退去を求めた同駅貨物掛佐野桓に対し顔面を殴打し、腹部を数回足蹴りにするなどの暴行を加え、同人に全治一週間を要する左頬部、右前額部、左下腹部挫傷の傷害を与えた。

そこで、被申請人は、申請人の右職員に対する暴行、傷害の行為が就業規則第六六条第一七号に定める懲戒事由「その他著しく不都合な行いのあつたとき」に該当するものとして、国鉄法第三一条第一項により申請人を本件免職処分に付したのである。

(三)  本件免職処分を無効とする申請人の主張はすべて理由がない。

(1) 職員の業務外の行為は懲戒処分の対象とならないとの申請人の主張は、失当である。前記のように、被申請人の職員は一般私企業の職員と性格を異にし、全体のための奉仕者として法令を遵守し国民に対し忠実に職務を遂行する職責を負うものである。就業規則第六六条第一七号はかような職員の特殊の地位と職責に対応し、直接業務に関すると否とを問わず、いやしくも、被申請人の職員としての地位に背反するような不都合な行為は、前各号に該当しない場合も、これを懲戒することを定めたものであり、このことは、同条第一六号が単に「職員としての品位を傷け又は信用を失うべき非行のあつたとき」と規定し、業務外の非行をも懲戒事由に含めた趣旨と同様である。しかして、就業規則の右のような定めが国鉄法第三一条にいう「日本国有鉄道の定める業務上の規程」に該当することは、疑を容れない。なお、同法第三〇条は、単に職員が刑事事件に関し起訴された場合の休職処分につき規定しているだけで、懲戒処分が専ら同法第三一条によるべきことは、規定自体から明らかなところである。

(2) 申請人の前記所為は、その情状において免職処分を相当とする「著しく不都合な行い」である。まず、申請人の右所為は単なる私憤に出たものではなく、伊藤駅長の正当なる業務管理に対する反撥であつた。すなわち、昭和三六年三月頃、同駅長は、組合が東横浜構内にはりめぐらした組合関係のビラの撤去に応じないので、管理権に基きこれを撤去したところ、組合は報復的に一層多数のビラをはり、その責任者として組合の同駅副分会長今井宝作が戒告処分に付されると、申請人ら組合役員は、更に、同月三一日深夜から翌朝にかけて、駅長室本屋窓硝子や駅長のテーブルにいたるまで「反動伊藤駅長をほうむれ。」「伊藤駅長の大馬鹿野郎。」などの字句を記載したビラをはりめぐらした事実もあつて、申請人ら組合役員はかてね伊藤駅長の業務管理に反感をいだいていた。申請人の本件行為もこの反感に由来するものであつて、職制の正当な業務管理を暴力をもつて阻止しようとするに等しい重大な非行というべきである。

四、申請人の再反論

1  本判前の主張に対する反論

本件免職処分が行政処分であるとの被申請人の主張は、以下に述べるとおり失当である。申請人と被申請人との雇傭関係は私法上のものであり、免職処分は私法上の解雇に外ならない。

(一)  被申請人が公法上の法人であることは、当然にその身分や雇傭関係が公法上の関係であることを意味しない。国鉄法第三四条第一項の規定は、被申請人の役員及び職員を刑法第七条の関係において、公務員と同様に取扱う趣旨を定めたものに過ぎない。のみならず、国鉄法第三四条第二項は被申請人の役員及び職員に国家公務員法の適用がない旨を明規している。被申請人は、職員が全体のための奉仕者たる旨を定めた同法第九六条のような規定が国鉄法に存しないのは、国民に属する財産を管理運営する被申請人の責務上、明文をまつまでもなく当然だからであると主張するが、すべての職員が財産を管理運営する地位にあるわけではなく、公労法第八条第一項が、管理運営に関する事項は団体交渉の対象とすることができない旨規定していることからみて、むしろ、一般職員には財産の管理運営の権限はないものと解されるから、右主張は当らない。更に、国家公務員については、国家公務員法第一〇〇条、第一〇二条、第一〇三条のように一般私企業の場合とは著しく異なつた服務規定がおかれ、また、同法附則により、労働基準法、労働組合法の適用が全面的に排除されているのに対して、被申請人の職員については、そのような規定はない。国鉄法第二九条ないし第三二条に類する規定が一般私企業の就業規則中にも存することは、被申請人の自認するところであり、同法第六〇条及び第六一条の規定は、国から国有鉄道事業を引継いだ後の被申請人の職員についても、労災補償や失業保険に関しては従前国営の当時と同様に取扱うための便宜的、技術的配慮に出たものに外ならないから、右諸規定をもつて被申請人と職員との関係を公法関係と断ずることはできない。

(二)  次に、公労法が被申請人の職員に対し、使用者たる被申請人の対等の立場で団体交渉をなし、労働協約を締結する権限を認め、労使紛争の解決方法として調停及び仲裁の制度を設けていることは、一般の国家公務員が右のような対等の立場における紛争解決の方法をもたず、その勤務関係を専ら法律又は人事院規則に依存しているのとは著しい相違が認められ、この点において被申請人と申請人との関係は、むしろ一般私企業の雇傭関係に極めて近似している。

(三)  国鉄法第一三条によれば、総裁は被申請人の代表者であるにとどまり、同法第三一条が特に総裁を懲戒権者と定めた趣旨は、懲戒の重大性に着目し、その権限を理事その他の機関に委ねることなく総裁自らこれを行うことにしたに過ぎないのであつて、総裁が行政庁としての性格を有することを根拠づける規定ではない。

2  懲戒免職事由に対する反論

(一)  被申請人が懲戒事由として主張する前記三2(二)の事実のうち、被申請人主張の日夕刻頃からその主張の場所で、その主張のような二つの会合が行われた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  右会合の当日、申請人は横浜市中央会場で行われたメーデーに参加し、その解散後、集会所における前記メーデー実行委員会の解散会に臨んだ。午後四時半頃から酒宴に入り、申請人は四畳半の間にいて、午後六時頃までに冷酒を三合位飲んでいたが、その間、午後五時頃便所へ行つてのかえり開会前の隣室の送別会場に日頃顔見知りの前記川口や瀬戸がいるのを見かけたので、酔つた気嫌で「知らない仲間ではないから、挨拶ぐらいしてもいいじやないか。」と笑いながら話しかけたことがあるのに過ぎない。午後六時過頃、申請人が再び便所に立つと、送別会場入口附近の廊下で解散会出席者の村田博に出会つたので、同人と立話をしていた。申請人は日頃から声が大きいうえに、酩酊していたせいもあつて、その話声がかなり大声であつたらしく突然、送別会場の戸が開き、「やかましい。」といわれたので、申請人も「何がうるさい。」といい返した。すると送別会場から四、五人の者が出て来て申請人を取押え、無理に室内へ引きずり込んだ。申請人はこれに抵抗しているうち、顔見知りの前記瀬戸に声をかけられたので、安心してその場に坐り込んでしまつたが、まもなく駈けつけた解散会出席者に助けられ、同室を出て解散会場に戻つたのである。前記のように、申請人が取押えられたのをふりほどこうとしてもがいた際、申請人の手足が誰かにふれたとしても、それは、突然奪われた身体の自由を回復するためやむを得ない、いわば正当防衛ともいうべき行為であつて、問責に値する暴行とはいえない。かえつて、その際、申請人は誰かに蹴られたためか、左膝に激痛を覚えた。

(三)  なお、申請人は、東横浜駅とは所管の異なる東横浜貨車区に所属し、業務上伊藤駅長の指揮命令を受ける関係にないから、同駅長に反感をいだくはずがない。

五、疎明≪省略≫

理由

一、申請人が昭和二〇年九月二〇日被申請人の職員として雇傭され、昭和二五年一〇月から東横浜貨車区修車掛として勤務していたこと、被申請人の総裁が、被申請人主張の理由により、その主張の日に申請人を国鉄法第三一条により本件免職処分に付したことは、当事者間に争いがない。

二、本案前の主張に対する判断

1  まず、被申請人の法律的性格について考えてみる。

被申請人が、従来純然たる国の行政機関によつて運営されてきた国有鉄道事業及び附帯事業を引継ぎ、能率的運営によりこれを発展させ、もつて公共の福祉を増進することを目的として、設立された公法上の法人であることは明らかであり(国鉄法第一条、第二条)、更に、国鉄法には、被申請人が役員任免、事業運営等について政府機関の監督に服し、予算、会計についても、政府及び国会の規整を受くべき旨の規定が存することも、被申請人が指摘するとおりである。しかしながら、右のような国鉄法の諸規定は、被申請人の営む鉄道事業の沿革と規模に徴して、立法政策上一般の私鉄企業に比しより高度な国家ないし政府の後見監督的規制に服せしめたことを示すにとどまり、被申請人をめぐるすべての法律関係、特に職員との関係を公共関係と断ずる根拠とはならない。被申請人が鉄道事業の経営を本務とするいわゆる公共企業体に属し、公権力の行使にあずかる行政機関でないことはもちろん、当然に行政機関ないし行政機関に準ずる性格を有するものといえないことは、既に設立の沿革及び趣旨に徴して明らかであろう。これを要するに、被申請人と職員との間の法律関係が公法関係であるか、私法関係であるかについては、単にその事業主体が公法人であるとか、事業活動が公共的であるとかによつてこれを論定するのは正当ではなく、両者の関係が実定法上国家公務員におけるような特別権力関係的なものとして規律されているか、それとも、当事者対等の私的自治的な関係として規律されているかによつて、これを判定するのが相当である。

2  そこで右の見地から、被申請人とその職員の雇傭関係が具体的にどのように規律されているかについて検討する。

(一)  まず、任免、給与、懲戒、服務基準等の規律についてみるに、国鉄法には、職員の任免は能力の実証に基いて行い(第二七条)職員の給与は職務の内容と責任に応ずるものであることを要し(第二八条)一定の事由がなければ職員は意に反して降職、免職、休職されず(第二九条、第三〇条)、一定の事由があるときは職員を懲戒処分に付することができ(第三一条)、職員は法令及び業務規程に従い全力をあげて職務の遂行に専念すべき旨(第三二条)などの規定があるけれども、ほぼこれと同趣旨の規定は一般私企業の就業規則においても、しばしば見られるところであるのみならず、これを国家公務員法のこの点に関する規定と比較してみると、その間に多くの差異が認められる。まず任免、給与について、国鉄法では、その規準の大綱を示すにとどめ(第二七条、第二八条)、その具体的規律については被申請人の定めるところに一任しているものと解されるのに対して、国家公務員法においては、職員の採用、試験、任用手続等につき(同法第三三条ないし第六〇条)、また、給与準則、給与の支払等につき(第六三条ないし第七〇条)極めて詳細且つ具体的に規定し、しかも、なお、細部の規整はこれを人事院に委ねている。次に、降職及び免職事由についてみると、国家公務員法第七八条と国鉄法第二九条の各第一号ないし、第三号はほぼ同旨であるが、第四号において、前者は、「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」と規定するのに対し、後者は「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」とことさら私企業的色彩の強い表現を用いて規定しており、また、懲戒事由を規定した国家公務員法第八二条と国鉄法第三一条第一項を対比すると、ほぼ同旨の各一、二号の外、前者は、第三号において「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」を掲げ、職員の公務員たる性格を明らかにしているのに対し、後者にはかかる規定を欠いている。更に、一般服務関係について、国鉄法第三二条が前記のような根本基準を定めるにとどまるに対して、国家公務員法は根本基準を規定する第九六条において、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務」すること、を明らかにする外、上司の命令に対する服従、信用の保持、秘密の遵守、職務への専念、政治的行為の制限、私企業からの隔離、他の業務への関与制限等(第九八条ないし第一〇四条)公務員の特殊な勤務関係に応ずるものと解される詳細な規定を設けている。

被申請人は、その職員が公務員同様国民全体の奉仕者であることは、公共の財産を管理する被申請人の責務の性質上当然である旨主張するけれども、国鉄法が被申請人の職員に対し国家公務員法にいう「国民全体の奉仕者」の文言を使用していないことは、法が国家公務員の勤務関係と公共企業体である被申請人の職員のそれとは自ら性格を異にする点を考慮し、意識的にこれを差別したためと解するのが相当である。

また、国鉄法第三四条第一項が、職員を「法令により公務に従事する者とみなす。」旨規定しているのは、刑罰法規の適用上職員を「公務員」と同視するにとどまるものと解すべく、むしろ右規定の「みなす」という措辞からすれば、法が本来は被申請人の職員を公務員と異別視していることが窺われる(因に、日本銀行法第一九条第一項にも、同銀行の職員につき同旨の規定がある。)。次に、国鉄法第六〇条が労働災害補償保険法第三条第三項の適用につき、被申請人の事業を国の事業とみなし、国鉄法第六一条が失業保険法第七条の適用につき、職員を国の職員とみなしているのも、被申請人の事業の沿革と公共性を考慮した特別政策的のものであつて、もとより、職員の雇傭関係を公法上の関係と断ずる根拠とはならない。

(二)  「公務員等の懲戒免除等に関する法律」第二条は大赦又は復権が行われる場合、政府は政令により公共企業体の職員の懲戒免除をなしうる旨規定し、右規定に基き、日本国との平和条約効力発生に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令第一条は、被申請人の職員の懲戒免除を定めているけれども、これまた、被申請人の事業の沿革、公共性等を配慮した特例的な規定であり、かような局限的事例から直ちに全般を推及し、被申請人の職員の雇傭関係の性質を公務員のそれと同視するのは当らない。

(三)  次に、被申請人と職員との間の労働関係については、まず、公労法が適用され、(同法第三条)、同法によれば職員に対し一切の争議行為が禁止され(同法第一七条、第一八条)、この点において公務員と同様であつて、(国家公務員法第九八条第五項、第六項、地方公務員法第三七条、地方公営企業労働関係法第一一条、第一二条)、一般私企業の従業員との間に明らかな差異の存することは、被申請人の主張するとおりである。しかしながら、他面、職員の組合は賃金、労働時間等の労働条件を始め、降職、免職、休職から懲戒の基準にいたるまで広汎な団体交渉権を与えられ、被申請人と対等の立場で自由に交渉し、これに関する労働協約を締結しうる地位を認められているのであつて、上記労働条件等の決定について団体交渉権を有せず(国家公務員法第九八条第二項、地方公務員法第五五条第一項)、かかる事項は法律、人事院規則、条例、地方公共団体の規則等の定めるところに委ねられ、予め使用者と対等の立場でその決定に関与し得ない一般の公務員の場合とは著しい差異が存することも看過し得ない。もつとも、公務員であつても、国又は公共団体に固有の行政権力作用を離れ、その営む企業的活動に従事している、いわゆる五現業官庁及び地方公営企業の従業員については、公労法又は地方公営企業労働関係法により、被申請人など公共企業体の職員と同様に団体交渉及び団体協約締結の権利を認められ、これに伴い国家公務員法又は地方公務員法の規定の適用が一部排除されているが(公労法第三条、第四〇条、地方公営企業労働関係法第四条、地方公営企業法第六条、第三六条、第三九条)、公務員として国又は地方公共団体との特別権力関係に相応するものと解される任用、分限、懲戒、服務等に関する規定の大半は、いぜんその適用を免れない点において、被申請人などの公共企業体の職員の雇傭関係とは、なお性質上の差異が認められるのである。

思うに、国が勤労者に団結権、団体交渉権、争議権等いわゆる労働三権を憲法の保障に牴触しない限りにおいて、どのように与え、また、どの程度に制限するかということは、その担当する業務の性格や規模、内容、そこにおける労使関係の実情等を具体的に判断して決定さるべき労働政策の問題であつて、その身分が公務員であるかどうか、更に、当該事業が国営ないし公営の形態をとるか、公共企業体ないし民営の形態をとるかによつて当然にその帰結を異にするものではなく、換言すれば、労働三権の取扱いいかん、特に争議行為が禁止されていることの一事をとらえてその雇傭関係の性質を直ちに公務員のそれと同視することはできない。このことは、ひとしく公務員たる身分を保有しながら、当初は広く労働三権を認められ、次いで、一般公務員につき団結権、現業公務員につき団結権と団体交渉権のみが認められるにいたつた終戦後の歴史的変遷について被申請人自ら主張するところによつても明らかであろう。

これを要するに、被申請人の職員につき公労法が争議行為を禁止したのは、これを公務員と解したがためではなく、その事業の公共的性質、特にその規模が全国的に及ぶことを配慮した労働行策的見地によるものと解するのが相当である。

3  国鉄法第三一条は懲戒権者を総裁と定めているが、右規定は総裁の役員任免権に関する規定(第一九条第二項、第二二条第二項、第二二条の二第二項)等と同様、懲戒のような部内の規律維持に重要な事項には、総裁自ら関与すべきことを定めたにとどまるものと解すべきで、被申請人主張のように右規定から直ちに総裁が行政庁の性格を有することを根拠づけることはできない。

以上1ないし3において検討した結果に徴すれば、公共企業体である被申請人の職員の性格を一般私企業の従業員のそれと全く同視し得ないにせよ、少くとも、被申請人との間の雇傭関係については、公務員に特有な特別権力関係的規律よりも当事者対等の私法的規律が支配的に妥当しているものと解され、従つて、本件免職処分は公法関係をもつて律すべきではなく、総裁も行政庁として取扱われるべきではないから、被申請人の本案前の主張は採用することができない。

三、免職事由に対する判断

1  昭和三六年五月一日夕刻頃から集会所二階において東横浜駅職員有志による退職者送別会が行われ、隣室の四畳半及びこれに続くベランダでは申請人を含む一六名による国鉄労働組合横浜支部横浜及び高島両地区協議会のメーデー実行委員会の解散会が行われていたことは、当事者間に争いがない。この事実に(疎明―省略)を総合すれば、次のような事実が認められる。

申請人は昭和三六年五月一日横浜市内で行われたメーデーに参加した後、同日午後四時頃、前記メーデー実行委員会の解散会に出席のため、集会所に赴いた。解散会は一六名が出席して、午後四時過頃から二階四畳半とこれに続く玄関上のベランダにおいて開かれ、冷酒、ビール等がふるまわれて、申請人も冷酒を約三合飲んだ。ところで、隣接の二階八畳の間の三室は東横浜駅長伊藤喜一、助役小巻広邦、同米山留七、運転掛川口利一、貨物掛佐野桓、庶務掛市川繁夫ら同駅勤務の有志二六名による前同駅長高野沢操、同助役石井幸次郎ら退職者の送別会場にあてられ、午後五時頃から前記伊藤駅長小巻助役、川口運転掛らが相次いで参集し、退職者では石井元助役が出席しただけで、午後六時一五分頃から開宴された申請人ら解散会出席者は、送別会に前記伊藤、小巻、川口(組合幹部が右三名に対しかねて敵対感情をいだいていたことは、後記3のとおりである。)らが臨席していることを知り、酒の酔も手伝つて、その一部の者は送別会場に面するコンクリート廊下をことさら下駄音高く歩いたり、高窓から会場内をのぞいたりしていたが、午後七時近くなると、廊下から送別会場の引戸を開放し、内側から閉じられるとまたすぐこれを開放したり、外側から引戸を強く叩くなどの嫌がらせをくり返した。午後七時一五分頃、石井元助役の座席に近い引戸が二、三度非常に強く叩かれたので、同人が内側からこれを開放したところ、申請人は「内緒話をして、何が悪い。」と同人に突つかかりながら会場室内に立ち入り、その胸倉をとり、両手で二、三度突上げるように押し込んでこれを突放しそのため転倒した同人を二、三回足蹴りにしたうえ、これを制止しようとした前記米山の手を払いのけ、股を蹴り上げて同人をその場に転倒させ、同じく制止しようとした前記市川の左腕を殴つた。申請人は、更に、両手をあげて制止に入つた前記佐野の左頬を殴り、なおも退去を求める同人を「生意気いうな。」と襟首をつかんで押倒し、その頃同室に入つてきた数名の解散会出席者に羽交締めのようにつかまえられながらも、なお申請人に退去を迫る同人に対しいきなりその左下腹部を足蹴りにした。かくして、送別会場は混乱に陥り、右解散会出席者らの伊藤駅長に対する怒号や前記米山、川口、小巻らとの間の小ぜり合いが続けられている間に、申請人は会場外へ去つた。解散会出席者の一部は、なお送別会場で伊藤駅長らを非難口論していたが、やがて前記市川や解散会出席者の組合横浜支部桜木町分会長鈴木司のとりなしでその場を去り、混乱はおさまつた。けれども、申請人の暴行によつて、佐野は左頬部、右前額部、左下腹部挫傷、米山は左大腿部挫傷によるいずれも全治一週間を要する傷害を負つた。もつとも、両名とも右加療の間、特に勤務を休むことはしなかつた。

申請人本人尋問の結果中、以上の認定に反する部分は採用せず、他にこの認定を左右するに足る資料はない。

2  国鉄法第三一条第一項第一号は、職員の懲戒をなしうる場合として、「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」と規定しており、ここにいう「業務上の規程」とは、広く業務の円滑なる遂行のため職員の遵守を要するものとして被申請人の定める規程を意味し、いかなる事項を懲戒事由とするかは、これを就業規則等の右にいう規程の定めるところに委ねたものであつて、懲戒事由を職員の業務執行中又は業務に直接関係した非行に限定した趣旨でないことは、その文言上明白である。従つて、これと見解を異にし、業務外の非行については、同法第三〇条第一項第二号に該当した場合における休職のみが問題となるに過ぎないとの申請人の主張は理由がない。

被申請人の就業規則(成立に争のない乙第一七号証「日本国有鉄道就業規則」第六六条によれば「職員に次の各号の一に該当する行為があつた場合は、懲戒を行う。」として第一号から第一七号まで懲戒処分の対象となる職員の非行を列挙し、その第一六号までは、やや具体的に個々の行為を掲げ第一七号には概括的に「その他著しく不都合な行いがあつたとき」と定めている。しかして、第一号から第一六号まで掲げる行為の大部分は、直接業務に関連するものと認められるが、たとえば第一六号の「職員として品位を傷け又は信用を失うべき非行のあつたとき」とは、業務外の「非行」を含むものと解すべく、従つて、第一七号の「その他著しく不都合な行い」とは、前各号に準ずる程度の非行と解さるべきにせよ、申請人が主張するように、前各号と関連させて第一七号の「不都合な行い」も業務上のものに限定して趣旨と解するのは文理上困難である。のみならず、本来、懲戒は企業秩序維持のため、使用者がその雇傭する労働者に対して加える一種の不利益処分であり、従つて、懲戒事由も従業員の業務上の非行が中心となるのが自然の数であるにせよ、必ずしもそれに限られず、業務外の非行であつても、これを放置することが企業秩序の維持に有害であると認められる場合には、これを懲戒の対象とすることを妨げないものと解すべきである。第一七号の「著しく不都合な行い」とは、業務の内外を問わず、被申請人の企業秩序維持のため放置できない点において前各号に準ずる程度の非行を指称するものと解すべく、右規定はかかる趣旨のものとして有効であり、およそ従業員の業務外の非行を懲戒事由とすることは、職員の私生活に干渉し、個人の自由を侵害するものとして許されないとする申請人の主張は採用に値しない。

3  そこで、申請人の前認定の行為が右就業規則第六六条第一七号に定める「著しく不都合な行い」に該当し、且つ懲戒として免職処分を相当とするものであるかどうかについて判断する。

(疎明―省略)に弁論の全趣旨を総合すると、前記伊藤駅長は昭和三六年二月一三日着任以来、業務管理方針として当時同駅構内に多数はりめぐらされていた組合関係のビラ類の撤去につき強硬な態度で臨んだのに対して、組合側はこれに反撥し、横浜支部発行の速報記事で同駅長をはげしく非難したり、同駅本屋の塀に「伊藤駅長の大馬鹿野郎」などと大書した紙片をはつたり、前記小巻助役がビラ類を撤去したことに対し、同助役に抗議などする同支部の組合幹部(申請人の組合歴については後記四のとおりである。)らは伊藤駅長及びこれに同調する小巻助役に対する敵対感情を強めていたこと、前記同駅運転掛川口利一は、かねてから国鉄労働組合の運動方針に批判的であり、同年三月一日職能別労働組合結成の準備委員長となり、同組合結成後は同駅分会長に就任し、組織の拡大につとめていたため、同じく前記組合幹部から特に反感を持たれていたこと、申請人は東横浜駅貨車区修車掛として同区長の指揮に服し、職制上東横浜駅長の指揮下には属さないけれども、駅長以下駅職員とは、同一場所において勤務し、日頃互に顔を合せている間柄であつたことが認められる。

前記1に認定した申請人ら解散会出席者の行動は、かねて組合幹部として前記伊藤、小巻、川口らに対しうつ積していた敵対感情が、たまたま酒宴の会場を隣り合わせ、飲酒酩酊の気勢に駈られて激発した結果と認められ、更に、恐らくはメーデー参加直後の昂揚した気分や前記三名らの出席する送別会のために、申請人らが手狭な部屋しか使えなかつたという不満の気持も手伝つてのことと思われるが、そのいずれの動機も申請人の前記行為を首肯せしめるに足る正当なものとはいい難く、徒らに感情に駈られて他人の専用する室内に侵入し、当面の相手方とこれを制止する者との見境なく、殴る、突く、蹴る等の暴力を振うことのみに終始し、その結果前記のような傷害まで負わしめるにいたつた申請人の行動は、著しく常軌を逸し、その暴行行為の態様自体決して情状は軽くないものというべきである。しかも、右行為は直接業務上の行為と関連するものでないにせよ、被申請人の管理保有する施設内において、申請人より上席者を含む多数の職員の面前において、職員及び前職員に対し公然と加えられた非行である点において、企業秩序維持の観点から職場における職務執行中の非行とほとんど選ぶところがないといつてよい。それが前示就業規則の懲戒事由「著しく不都合な行い」に該当することは明らかであり、懲戒処分として免職に付せられたとしても、裁量の正当な範囲を逸脱した違法なものと断ずることはできない。この点に関する申請人の主張も採用できない。

四、不当労働行為の主張に対する判断

申請人が昭和二九、三〇、三四、三五の各年度に国鉄労働組合横浜支部東横浜貨車区分会長に選出され、昭和三一ないし三二の各年度には同分会委員に選出されたこと、昭和二五年七月一一日被申請人が申請人に対し、申請人が同年六月二一日、二二日の両日桜木町駅で勤務中の職員を多数の組合員とともに、強制連行したとして、職員として不都合な行為であるとの理由で懲戒処分として戒告に付する旨の事前通知をなしたこと、これに対し弁明弁護がなされた結果、申請人が戒告処分に付されなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。そして(疎明―省略)を総合すれば、右懲戒処分の事前通知に対し、被申請人と国鉄労働組合との間の懲戒の基準に関する協約に基き、東横浜貨車区副分会長松永函の弁明弁護の結果、六月二一日、二二日の両日申請人が桜木町駅に出向いていないことが判明したので、右協約第一七条に基き、被申請人において事前通知の取消をなしたものであることが認められ、弁論の全趣旨によれば、右事前通知は被申請人において申請人の組合活動を嫌悪し、申請人を組合活動から遠ざけるため発せられたものでなく、被申請人側の全くの誤解に基いて発せられたものであることがうかがわれ、その他、申請人がなした正当な組合活動の故に、被申請人が申請人を嫌悪していたと推測するに足る資料なく、結局被申請人が申請人の組合活動を決定的な動機として本件免職処分をなしたと認めるに足る疎明は存しない。

五、よつて本件仮処分はその被保全権利について疎明がないことに帰するだけでなく、保証を立てさせることによつて本件のような仮処分を命ずることも相当でないと考えるのでこれを却下することとし、申請費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一九部

裁判長裁判官 吉 田   豊

裁判官 橘     喬

裁判官 松 野 嘉 貞

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例